けいおん!
3万人を動員したLIVEイベント「Come with Me!!」
5周年を記念して「Come with Me!!」セットリスト曲がハイレゾ化
約3万人を動員した、さいたまスーパーアリーナでのLIVEイベント「Come with Me !!」のセットリストを再現、あの感動がふたたび!!
配信楽曲
けいおん!音源のハイレゾ化のこだわり
多くの人が待ちに待った、TVアニメ「けいおん!」シリーズのハイレゾ音源がついに配信されることとなった。以前からハイレゾ化希望の声が多数寄せられていたタイトルで、まさに待望のリリースとなる。
今回のハイレゾは、「けいおん!」第1期、第2期のオープニングテーマ&エンディングテーマ、放課後ティータイム(HTT)による楽曲、キャラクターイメージソングなど合わせて26曲。また未発表のヴァージョンも3曲含まれている。さらに、今回の音源では、当時のレコーディングデータをマルチトラックから見直して、96kHz/24bitスペックの最新環境を使い、ミックスダウンから再びやり直すという、手間と時間のかかったこだわりの作業が行われている。
なお、ハイレゾ版「けいおん!」楽曲に関しては、ポニーキャニオンの通販サイト「きゃにめ.jp」にて6月上旬から中旬頃、先行配信される予定だ。これらの楽曲は、単曲でも配信されるが、アルバムとしてもリリースされる。実は、こちらの曲順が面白かったりする。何を隠そう、2011年2月20日にさいたまスーパーアリーナにて行われた「けいおん!! ライブイベント ~Come with Me!!~」のセットリストを完全に再現しているのだ。ライブイベントの興奮がスタジオ録音の音質でよみがえるという、非常に興味深い試みとなっていたりもするのだ。(「桜が丘女子高等学校校歌」のみライブ音源)
けいおん!はいれぞ「~Come with Me!!~」セット詳細はこちら
このように、新たにリリースされることとなった「けいおん!」ハイレゾについて、『けいおん!』楽曲に深く携わっている3人、音楽プロデューサーの磯山敦氏(元ポニーキャニオン)、同じく音楽プロデューサーの小森茂生氏(F.M.F)、エンジニアの井野健太郎氏(F.M.F)にハイレゾ化の経緯を詳しくお伺いした。
(インタビュー:野村ケンジ テキスト:水上渉)
一番最初に、「けいおん!」のハイレゾ音源リリースの企画があがった時は、どう思われましたか?
磯山 正直に言って、ハイレゾにしたからってそんなに変わるものなの?と思いました。もちろん、音質にはこだわりがあります。何を隠そう、CDの制作時にはプレス工場からマスターを引き上げて、何度もやり直してたくらいなんで(笑)。CDとハイレゾとでどのくらいの音質の差が出るのか、ちょっと想像できなかったんです。
小森 僕もハイレゾ化には懐疑的でした。というのも、世の中に出ている過去の音源をハイレゾ化した作品を聴いてみても、これ本当にハイレゾ化する必要あるの? と感じるものが多くて。クラシックやジャズのようなアコースティックな音楽はともかく、元々ハイレゾで録音されていないポピュラーミュージックの音源を、ハイレゾ化する意味があるのかなと常々思っていました。「けいおん!」も同じく、元々48kHzでレコーディングされたものを96kHzのハイレゾにすることに疑問を持っていました。
では何故、ハイレゾ化を進めようと思われたのでしょうか?
磯山 昨年、井野くんからサンプルとして作った「けいおん!」のテスト用のハイレゾ音源を聴かせてもらったのがきっかけですね。明らかに音が良くなっていたんですよ。もう、聴いた瞬間に目から鱗が落ちる思いで。単なるアップコンバートするだけだったら意味がない。この音ならばハイレゾでやる意味が充分にある、そう感じました。
小森 実は、このサンプルは、井野さんがきちんとマルチトラックからミックスし直したものなんです。簡易なハイレゾ音源もある中で、確かに、これならばハイレゾでやる価値があると感じさせるサウンドに仕上がっていました。そして、やるならばきっちりと時間も労力もかけて、じっくりとやりたいと思いましたね。
井野 実際の作業は去年の秋ぐらいからスタート、いろいろと試行錯誤をしながら進めました。僕も最初、ハイレゾについては疑問視をしていた側なんです(笑)。やはり2MIX(ステレオにミックスした音源)のCDマスター音源をただアップコンバートしてハイレゾにすることには良心の呵責を感じますし。とはいえ、48kHzで録音された音源を96kHzにすることにも意味があるのかと懐疑的な思いを持っていました。しかしながら、理屈で考えていても仕方がないので、実際に48kHzでレコーディングされたマルチトラックの音源を一回バラして、96kHzにミックスすることにしたんです。すると、驚くほどの変化があったんです。
それは、どのような変化だったのでしょうか?
井野 マルチトラックの音源を最新の96kHz環境で作業をすると、リヴァーブやディレイ、歪みなどの成分が96kHzならではのクォリティで再現されるんですね。付加されたものの解像度が一気に上がり、額縁がひとつ広がったような、広い空間表現を持つサウンドに生まれ変わりました。実際、スペクトラムアナライザで検証しながら作業を行ったのですが、可聴帯域外の成分がたっぷり表示されていて、随分驚いたことを覚えています。これならば、96kHz環境でもう一度作り上げ直す価値があるなと実感しました。
96kHz環境でのミックス作業について、ご苦労された点とかありますか?
井野 けいおん!の音源制作は意外と長い期間にわたっていて、最初の頃はレコーディングにPro Tools 8を使っていました。作業を始める前は、当時と同じようにバージョンのPro Tools でミックスし直そう、とも考えていたんです。ところが、最新のPro Tools 12でミックスしたものと比べたら、そちらの方が明らかに解像度(音表現のきめ細やかさ)が上がっていたりと、音質が良くなっていたんです。そこで、すべての曲のミックス作業を、Pro Tools 12で行うことにしました。ところが、実際に始めてみると、様々な問題が発生してしまって。当時のPro Toolsで使用していた、エフェクトなどのプラグインが、最新のPro Toolsのヴァージョンに対応しておらず、使用することができなかったんです。
それだと、パートによっては全く違うイメージの音色になってしまう可能性がありますね。それは、どのように対応をされましたか?
井野 バージョンアップしているプラグインは新しいものを手に入れ、そうでないものは同じような効果を期待できつつ、もっと良質な効果を持つだろう現行プラグインを探し出してトライしました。当時の音を出来るだけ忠実に再現するべく、プラグインのひとつずつを耳で確認しながら調整するという、地道な作業を念入りに続けていきました。
磯山 井野くんは、「けいおん!」楽曲のレコーディングとミックスを全て行っているので、一番、「けいおん!」の音を理解している人物といえます。だから、井野くん以外にこの作業は考えられませんでした。
小森 確かに。井野さんと、細かい部分での音決めをしていた磯山さんと、そして僕という組み合わせでないと、「けいおん!」の音の再現はできないのは確かです。ですので、必然的にこの3人が集まることに(笑)。
なるほど、1曲1曲時間をかけて、丁寧にハイレゾ用のミックス作業を続けたのですね。では全26曲となるとかなり大変な作業だったのはないでしょうか?
井野 ええ、結構大変でした(笑)。新曲をミックスするのと、ほとんど変わらないぐらいの時間や手間をかけることになってしまいました。実際、同じ音源であるのにもかかわらず、新たな音源を作るぐらいの感覚で作業をしなければならなかったんです。というのも、ハイレゾならではの良質なサウンドを実現することは重要なのですが、同時に、サウンド全体のイメージが変わっては元も子もない。そのことに充分気をつけながら、ミックス作業を進めました。
CDとハイレゾでイメージ関わることなく、それでいて、ハイレゾ版をリリースするだけの価値があるサウンドを求めたのですね。その際、特に注意したポイントなどありますか?
井野 そうですね、CDを持っているファンが、ハイレゾ版を買って良かった、いやハイレゾ版は絶対買うべき、と思ってもらえるよう腐心しました。そうですね、特に注意したのは、音圧レベルでしょうか。オリジナルのものから随分とピークを抑えたものまで、何段階か用意してお二人に聴き比べてもらい、「けいおん!」らしさを失わないレベルまでトータルコンプレッションを抑える方向でまとめ上げました。ハイレゾ音源はダイナミクスレンジが広くとれるので、CDに比べてるとピークが少し小さい音にも感じられることがあるのですが、その代わりに、ピークの時にも音がつぶれず、すべてのパワーがしっかりと伝わってくれる。そういった、ダイナミクスを活かしながら程よくコンプがかかっているといった、絶妙なバランスに仕上げることが出来ましたので、CD版よりも、より躍動感が増している印象に仕上がったと思います。
「けいおん!」らしさとはどのようなものなのでしょうか?
磯山 自分はアニメとしての「けいおん!」という作品全体に関わる音楽を考える立場なので、ユーザーが培ってきたイメージを壊さないように心がけました。オリジナルを踏襲しつつも、ファンの皆さんにおっと思わせる新鮮な感動を与えられるよう、ある部分は丁寧な表現を心がけ、ある部分はパワー溢れるサウンドを維持する。そういった風に、とおり一辺倒でなく、音楽としての表現の深さ、幅広さも求めています。
たとえば、楽曲によってどのようなイメージで調整されたのでしょうか?
磯山 HTT(放課後ティータイム)によるバンド曲は、バンドらしく聴こえるよう注意しました。音色の自然さや音の重なり具合、空気感の伝わり方など、女子高生が演奏している自然なニュアンスが伝わってくるようにしました。対してオープニングとエンディングは、「けいおん!」楽曲であると同時に、表題曲としての魅力も存分に発揮することも重要視しました。アニメのオープニングとエンディングは、音が耳に飛び込んで来た時のインパクトが重要だったりするんですが、そのそういった部分を確保するため、こういった楽曲に関しては意識的に音圧を上げていたりもします。楽曲のパワー感を保持したいけれど、ダイナミクスも欲しい。こういった音圧バランス調整に、一番時間を要したかもしれません。実際、井野くんが苦労したところでもあります。
小森 音数が少なかったり、メリハリのはっきりした楽曲のほうがハイレゾならではの良さが感じられやすいのですが、オープニング&エンディング曲は音が目一杯入りきっていて、そういった隙間がほとんどないんです。なので、トータル的な音圧をどうするか、高めたほうがよいのは多少余裕がある感じに仕上げた方が良いのか、一番悩みました。緩めれば緩めるほどダイナミクスは出るけれど、もともとの楽曲のイメージからは離れていってしまうので。
磯山 「GO! GO! MANIAC」が一番そうでした。ダイナミクスを充分に取ったら、勢いが弱くなってしまった。
小森 そう、勢いが失われてしまったので全体の音圧を強めたり。勢いも曲の魅力のうちなので、音の表現、演出といった役割のコンプのバランスを整えるのに、最も時間を費やしました。
磯山 楽曲のイメージや勢いの良さを損なわず、ハイレゾならではの良質なサウンドを活かす。そういった風に、絶妙なバランスを探ることは、かなり大変だったと思います。結局、みんなで試行錯誤しながらの作業となりました。
ミックス作業に関しては、今回取材をさせていただいたこちらのスタジオで全曲作業されたのですか?
井野 はい、ほとんどがそうです。ちなみにこのスタジオ、世の中に出ているプラグインが当時から全て揃ってるのが特徴だったりしまして、豊富にあるものだからつい、色々なプラグインを使ってしまうんですよ(笑)。レコーディングの際にも、その時発売された最新のプラグインを実験的に使用していました。ですから、当時のデータを開くともう使用できないプラグインがたくさん出てきてしまって。「けいおん!」は第1期、第2期、劇場版とその度レコーディングしているので、これらをどのように再現するか、過去の自分との戦いでしたね(笑)。
磯山 そういったこだわりのおかげか、「けいおん!」らしさは全て再現できてます。違和感はなかったですね。井野くんの頭の中には「けいおん!」の音が叩き込まれているんでしょう、完全に信頼してました。
小森 僕と磯山さんは俯瞰で曲を眺め、レベルやコンプなど、バランスの良さを重点的に考えました。あとは「このキャラクターの声明るすぎない?」など、直感的なことですね。
磯山 実際、僕がCDの時から「けいおん!」の音楽で最大限神経を注いでいたのは、キャラクターを保つことでした。いくら良い音になってもそのキャラクターじゃなくなったら元も子もないので、そのイメージを壊さないことは必須項目だったんです。そのあたりは、きちんと統一感のある仕上がりになっていますので、ハイレゾ版もファンの方に安心して聴いてもらえると思います。
今回の楽曲の中で特にオススメというものはありますか?
小森 まずオープニングとエンディングですね。ハイレゾにして一層楽曲の良さが活かされた感じがします。というのも、オープニングとエンディングは、頭から終わりまでフルパワーで駆け抜けているようなタイプの楽曲が多いので、ちょっと緩めただけでこんなにも変わってくるのかと、自分自身が驚いたくらい何です。なかでも、Tom-H@ck曲がオススメでしょうか。
磯山 Tomくんの「けいおん!」楽曲は、塊のようなパワーをたたきつけてくるようなアレンジが多いのですが、同時に、彼のバッキングはヴォーカルとぶつかり合うことで楽曲全体の構成が成立していたりするんです。そういった、シンクロしている2つの音をそれぞれにしっかりきこえるようにしつつ、融合によって生み出される心地よさをさらに高めるという、かなりセンシティブな再構築を行っています。
小森 このあたりは一番難しかったところですね。でも難しいからこそみんなで一所懸命に頑張る、そんな感じでした。だからこそ一番成果が表われているいるように思います。そんな、微妙な部分の変化がしっかりと感取られる楽曲に仕上がっている。磯山さんのオススメは?
磯山 全体としてベストを尽くしたので、やはりアルバムとして聴いてほしいですね。また今回は、けいおん!! LIVEイベント「~Come with Me!!~」の曲順に準拠しているので、歌い分けも同じになるようにヴォーカルを変更してあります。たとえば、クリスティーナ(河口紀美)のコーラスを加えたDEATH DEVILの「Maddy Candy」や、HTT5人による「ふわふわ時間(たいむ)」もそうですし、ソロヴァージョンしかなかった「Come with Me!!」は8人ヴァージョンを新たに作り出しました。これら未発表のヴァージョンも、聴きどころです。
井野 僕はHTTの曲が空間が多くてハイレゾしやすく、効果がわかりやすかったです。その中であえて言えば「天使にふれたよ!」ですね。聴いた途端に明らかに良い音であることが感じられました。
では最後に皆さんからご覧の方にメッセージをお願いいたします。
磯山 ハイレゾには、音楽の衝動をそのまま伝える表現力があります。ハイレゾ環境をお持ちの方には是非、聴いていただきたいです。
小森 配信やMP3などでしか音楽を聴いていない方にこそ、聴いてもらいたいです。圧縮音源に慣れてしまっている若い世代にも、音楽の奥深さに触れてほしい。それには良い音で音楽を聴くことが大切なんです。「けいおん!」のハイレゾが、そのきっかけになってくれたら嬉しいです。
井野 今回、ミックスをやり直しながら「けいおん!」の楽曲の良さを改めて感じました。ハイレゾには楽曲に浸って聴けるキャパのようなものがあるので、じっくりと楽しんでほしいですね。
ありがとうございました