10月23日に全国ロードショーされるアニメ映画『どうにかなる日々』は漫画家・志村貴子による同名短編集の中から4つのエピソードを映像化したオムニバス作品だ。
その4つのエピソードを貫くテーマは「痛いほどの好きは、きっといつか愛しくなる」。いずれもさまざまな恋愛関係・人間関係を通じて、人生のある一瞬のうちにすれ違った忘れがたき人を追想するストーリーを『あさがおと加瀬さん。』などで知られる佐藤卓哉監督が繊細に描き出している。そしてそのキャラクターに命を吹き込むのは、花澤香菜、小松未可子、櫻井孝宏、山下誠一郎ら、人気・実力ともに十分な声優陣。さらに主題歌と劇伴音楽は、今回初めて劇伴音楽を手がけるというクリープハイプが担当している。
今作のプロデューサーを担当したのはポニーキャニオンの寺田悠輔氏と宮井梨江氏。ともにまだ30歳を越えたばかりの若い世代のスタッフ陣だ。果たして彼らの感性には『どうにかなる日々』という漫画はいかに響き、また彼らはいかにしてこのアニメ映画を制作していったのか、話を聞いた。
寺田僕はもともと志村先生の作品が好きだったんですが、2015年に刊行された『どうにかなる日々』の新装版を読んで、「すごく今っぽいな」と思ったんです。『どうにかなる日々』は2002年頃の漫画なのですが、全く古さを感じませんでした。
寺田志村先生の作品は、人間関係や恋愛についてのフラットな視点を持っているところがひとつの特徴だと思っているんですけど、『どうにかなる日々』はことさらフラットだなと思ったんです。あとはどの登場人物も、正直なにを考えているのかがよくわからなかった。逆にそれが「こういう人っているよね」とリアルに感じました。
寺田そう思います。「この人はこう思って、こう動いている」みたいな感じで理屈になっていないところにとても惹かれました。
宮井寺田から「ちょっとこれを読んで感想を教えてほしい」という感じで渡されたのがきっかけです。実は、志村先生の作品を読ませていただいたのは今回が初めてだったんです。私も第一印象は、キャラの心情の説明があまり描かれていないのに、違和感なくナチュラルにストーリーが進むことに衝撃を受けました。これまで、キャラの心情が事細かに説明されている少女漫画ばかりよく読んできたので、こんなに粋で素敵なマンガがあるのか、とすごく引き込まれました。
寺田『どうにかなる日々』をアニメにできないかと考え始めたときに、まずは身の回りの人に漫画の感想を聞いてまわったんです。そうすると、結構いろいろな感想があって。ただ、なんとなく自分と同じ30歳前後ぐらいの人に特に評判が良さそうだったんですね。宮井も同世代なんですけど、漫画を読んでもらったらピンと来てくれたみたいだったので、一緒にやりませんか、という相談をしました。
宮井弊社で扱っているアニメは深夜アニメらしい雰囲気の作品が多いのですが、今作はジャンルが今までの作品とかなり違っているので、こういう作品をうまくアニメ化できたらちょっと新しい扉が開けるのかな? という感じがしました。
寺田僕自身がアニメというよりは実写の映画が好きで映像業界に入ってきていて。そういう自分の好みにフィットする作品だな、という印象はありましたし、あとは実写っぽい空気感のアニメを作ってみたい、という気持ちも自分の中にありました。
寺田佐藤監督と一緒に作品を作るのは『あさがおと加瀬さん。』『フラグタイム』に続けて3本目なんですけど、監督も実写映画が好きでそういうセンスを持っているのは知っていたので、この作品との相性も良いんじゃないかな、と思っていました。宮井も言っていたような、志村先生の漫画に漂っている空気感だったり、間だったりが、監督を中心としたアニメスタッフのセンスで映像に落とし込まれていると思っています。
宮井志村先生の漫画ってすごく空気感と間が素敵な作品ですよね。その表現が、映像でも原作と同じようにすごく心地いいものになったので、原作ファンの方にも満足して頂けそうだと思っています。あとは、普段アニメをあまり観ない方も入りやすい作品なので、是非おすすめしたいです。
寺田はい。