きゃにめ

どうにかなる日々

どうにかなる日々

Interview

──原作単行本にはこれ以外にもいろいろなエピソードが収録されている中で、この4本を選んだ理由は?

寺田もともと尺の上限が決まっていたので、アニメ化できるのは3~4本かな? と想定していました。そうなると、その3~4本を貫くひとつのテーマが必要になるな、と思って。それを考えながら原作を読み直していく中で、「今はもう身の回りからいなくなってしまったけれど、かつて近くにいた誰かを思い出す話」というくくりが浮かんだんですね。それを柱に、今回はこの4本を選ばせていただきました。

──かつて懇意にしていた人がいなくなってしまうことをテーマにしようと思ったのはなぜ?

寺田なぜでしょうね。明確な理由を聞かれると難しいですけど、年齢のせいもあるかもしれません。僕がこのアニメを企画したのが28歳のときで、今年30歳になったんですけど、「かつて身の回りにいたけれど、今はもう離れてしまった人を思い出す」ということがわりとあるなと思ったんです。病気で亡くなったとか、そういうことではなくて、学生時代にちょっとだけ関係を持った人をふと思い出す、みたいな。だからといって今連絡を取ってみるわけでもないですが、当時のことをふと思い出す感じでしょうか。

──確かに4本とも、タイトルに挙がっている2人には物理的な別離があったわけではない。主人公は気になる相手に会おうと思えば会えるんだろうけど、もともとの関係性ゆえに会うのもなんか違う、という関係を描いたお話ですね。

寺田そうですね。原作にはさまざまな恋愛や人間関係が描かれていますけど、そこまで明確な関係性ではないものも多いじゃないですか。「付き合ってください」みたいなセリフが物語の肝になっていない。キャラクターたち自身、付き合っているのかわかっていないかもしれないし、別れたのかもわかっていないかもしれない。そういう淡い関係って、経験したことがある人も多いだろうし、今っぽいリアルがあるのでは、という気がしたんです。

宮井たしかに、現実でも恋人や夫婦等のわかりやすい関係性だけではなくて、いろんな形の恋愛がありますよね。きっと、登場人物と全く同じ境遇の人はそんなにいないかもしれないですが、「この気持ちは何かで経験したことがあるぞ…」っていう共感をする方は沢山いるんじゃないかなと思います。

──ちょっと話が前後しちゃうんですけど、実際の映像制作はどのような手順で?

寺田佐藤監督や演出の有冨興二さんを中心としたメインスタッフには僕からのイメージを伝えていましたけど、その先のクリエイティブについてはおふたりとライデンフィルム京都スタジオのチームのセンスですね。背景美術や、間の取り方なんかについても、すごく実写っぽい映像になっていると思います。

──となると、寺田さんはすごくスタッフに恵まれているというか。あえて細かく意識を共有することをしなくても、スタッフ陣はイメージ通りの映像を作り上げてくれたわけですから。

寺田それは僕というか、志村先生の力が大きいと思います。志村先生ファンのスタッフもたくさんいたので。だから、今回の僕の一番の勝負どころは製作委員会を組成するところですかね(笑)。あとは音楽プロデューサーを兼任していたので、制作的にはそちらの作業をやっていました。

──その音楽プロデューサーにうかがいたいんですけど、今回主題歌のみならず、劇伴音楽をクリープハイプが手がけているのにはけっこうな衝撃を受けました。

寺田もともとこのアニメにはクリープハイプさんのような音楽が合うんじゃないかとは思っていて。そのイメージを原作側の皆さんにお伝えしたところ、志村先生もクリープハイプさんで好きな曲があるというようなお話が出てきたんですね。それもあって、この作品との相性が良いのではということは最初から感じていました。ただ諸事情あって、最初は主題歌ではなく劇伴音楽だけでオファーをしたんです。そうしたら、尾崎世界観さんが興味を示してくださって、一度打ち合わせをしたところ主題歌もやりたい、というお話を逆にいただいたんですね。そこからクリープハイプさんの所属しているユニバーサルさんともろもろ調整させていただいて、という感じです。「どうにかなる日々」とクリープハイプさんの組み合わせはきっと素晴らしいものになる、という前提のもと、各所のご理解とご協力があったから実現した企画です。

──しかもそのご苦労が功を奏したというか、クリープハイプの劇伴っていわゆる“サントラ”らしくなくて面白いですよね。ドラム、ベース、ギターというあのバンドで鳴らせる音しか鳴らさない、すごくいい意味でミニマムな編成になっている。

寺田いわゆるのバンドサウンド以外の楽器もあるんですけど、それもクリープハイプのみなさんが演奏されています。そもそもアニメ自体が身の回りのことしか話していない作品なので、そのミニマムな感じ、バンドの皆さんで全てやる、という感じもフィットしていますよね。

──具体的にはどのように制作したんですか?

寺田映画の劇伴ってフィルムスコアリング……実際に映像を作ってから、シーンを指定して○分○秒の○コマから×分×秒の×コマにハマる音を作ってもらう、みたいな形が多いんですね。今回もそのパターンで発注していて。今回、佐藤監督が音響監督も兼任しているので、まず監督からの「ここからここまでこういう雰囲気の曲がほしい」という発注内容をまとめて、それを手に今度は尾崎さんと打ち合わせをするという流れで進めました。秒単位での曲の尺指定があったので、結構細かい発注でしたね。